Louis Putzel 「森林とガバナンス」プログラム ・サイエンティスト
REDD+の実施は、「大規模かつ迅速で、安価」だと想定されていた。現在までのところ、それは大規模に行われておらず、多くの小規模な試みが、多くの異なるドナーや機関によって設計され、実施されている。REDD+プログラムの設計と実施は遅々としており、当初考えられていたより、多くの費用がかかりそうである。これらはすべて、良くないことなのだろうか?
『REDD+を分析する:挑戦と選択( Analysing REDD+: Challenges and choices )』と題した論文集の編者、Angelsenらは、最初の5年間、REDD+は、予測しなかったさまざまな方法で拡大し、複雑さを増してきた、と語る。あてにできる長期の資金供給の欠如と、利害関心や見解や情報にみられる非常に大きな相異をひとつの理由として、初期のREDD+プロジェクトは、開発資金によって打ち立てられた。それらのプロジェクトは、気候変動に関する新しい国際合意がもたらしたかもしれない、基礎となる信頼のおける資金供給を受けてこなかった。
同所の編者たちは、森林減少と森林劣化を減じるためになすべきことについて、各自のアイデアに基づいて、多様なアクターが(独自の)プロジェクトを実施することのできる、「広大な林冠(broad canopy)」のようなものである、とREDD+を表現している。しかし、REDD+の取り組みは、森林消失をもたらし続けてきた現状を克服するための前提条件だと編者たちが考える抜本的変革を成し遂げるには至っていない。
Brockhaus とAngelsenは、そうした現状変革は、「ディスコース(言説)、態度、権力関係、そして、思慮深い政策における変化と抗議行動」を必要とするであろうと述べる。非持続的な森林利用を奨励する経済的インセンティブは取り除かれるべきであるし、新しい情報は「権利、森林保全、そして不平等」といった問題に関与している、全国的な、あるいはローカルなアクターのあいだで普及される必要がある。また、多様な利害を代表する新たな連携も図られるべきであろう。
当然のことながら、こうした変革を行うには困難を伴う。多様な利害を伴う連携は、REDD+をどのようなものとして理解するかについての焦点を失わせる可能性がある。科学者たちは、気候と炭素収支についてのクリアーな情報を生みだし普及させることが、難しい仕事であることを知っている。経済的インセンティブを変えるためには非常に変化に富んだ機会費用と勝ち組みと負け組のあいだの権力関係を理解することが必要となる。
様々な政治的スケールでの変化をもたらすため、さまざまなグループを巻き込むには、ほぼ確実に、便益を公平に分けあうことが必要となる。しかし、Luttrellらが指摘するように、REDD+の計画から誰が利益を得るべきかについて、潜在的に相反する多くの議論がある。すなわち、利益はその土地と炭素を蓄積している資源に対して法的な権利を有している人びとに向けられるべきか、それとも、当該森林に対して明確な法的権利を持っていないかもしれないが、優れた森林管理者である人びとに向けられるべきか、あるいは、私企業やNGOなどREDD+の実施者に向けられるべきか、といった議論である。
REDD+は、よく統治された資金提供メカニズムを伴うグローバルな条約に記された、法的拘束力を持った多国間の行動原則に従う、大規模かつ中央集権的なプログラムではない。この事実は、必ずしもREDD+の最大の欠点ではない。 Fairheadら による「緑の収奪(green grabbing)」(訳注:環境的目的で土地や資源を専有すること)に関する最近のレビューで強調されているように、大規模で、即座のREDD+は、リスクを伴う。自然に新たな価値を付与し(REDD+がそうするように)、ある国際的なしくみのなかで自然を市場に結びつけることは―そこでは、国外あるいは国内の事業利益がその国家によって優遇されることが多い― Peluso とLund が詳述しているように、「囲い込み、領土拡大、公認、暴力」といったプロセスを通じて土地と資源の地域的な収用を引き起こす可能性がある。
『REDD+を分析する:挑戦と選択』は、社会に対してそうした破壊的な影響を与えることなく長期にわたってREDD+が機能してゆくために対処する必要のある、潜在的ハードルと構造的欠陥を明らかにしようと奮闘している。同書の著者の多く(例えばJaggerら)が、森林環境だけではなく、コミュニティ・レベルの権利と意思決定における参加を擁護するための新たな連携と制度の必要性を訴えている。また、Larsonらが説明しているように、土地・資源の保有をめぐる問題の解決は、REDD+がうまくいくために必要とされる抜本的変革の一部をなしている。
『REDD+を分析する:挑戦と選択』は、(訳注:REDD+に対して)慎重な期待を抱いている。もしも、政策に影響を与える包括的な連携が構築されるならば、きっと、それらは遺恨無き形で行われるであろう。その道程で、誤った補助金の廃止や地域の保有をめぐる問題の解決など、いくつかのポジティブな目標を達成できるかもしれないのである。
『REDD+を分析する:挑戦と選択』は、REDD+の実施が直面する全ての問題を解決できるかのようなそぶりを見せてはいない。しかし、同書は解決すべき問題が何であるかを示す優れた成果であり、制度が向かうべき方向、多様なアイデアの統合、より多くの情報の共有、そして、多くの集団の利益の尊重を強調している。
REDD+が期待されていたのよりも、ゆっくりとししか前進していないとしても、それは必ずしも悪いことではない。もし、それが実現するならば、持続可能なREDD+は、土地と資源に対する地域の権利を護る制度、国の法制度の能力、そして、適合のための経済的利益と歩調をあわせて展開してゆくべきである。
[日本語訳 : 笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]
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Further reading
- Angelsen, A. and McNeill, D. 2012 The evolution of REDD+. In: Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D. and Verchot, L. (eds.) Analysing REDD+: Challenges and choices, 31-50. CIFOR, Bogor, Indonesia.
-
Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D., and Verchot, L. (eds.) 2012
Analysing REDD+: Challenges and choices. CIFOR, Bogor, Indonesia.
- Brockhaus, M. and Angelsen, A. 2012 Seeing REDD+ through 4Is: A political economy framework. In: Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D. and Verchot, L. (eds.) Analysing REDD+: Challenges and choices, 15-30. CIFOR, Bogor, Indonesia.
-
Fairhead, J., Leach, M. and Scoones, I. 2012.
Green grabbing: a new appropriation of nature?
Journal of Peasant Studies 39: 237–261.
- Jagger, P., Lawlor, K., Brockhaus, M., Fernanda Gebara, M., Sonwa, D.J. and Resosudarmo, I.A.P. 2012 REDD+ safeguards in national policy discourse and pilot projects. In: Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D. and Verchot, L. (eds.) Analysing REDD+: Challenges and choices, 301-316. CIFOR, Bogor, Indonesia.
- Larson, A.M., Brockhaus, M. and Sunderlin, W.D. 2012 Tenure matters in REDD+: Lessons from the field. In: Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D. and Verchot, L. (eds.) Analysing REDD+: Challenges and choices, 153-176. CIFOR, Bogor, Indonesia.
- Luttrell, C., Loft, L., Fernanda Gebara, M. and Kewka, D. 2012 Who should benefit and why? Discourses on REDD+ benefit sharing. In: Angelsen, A., Brockhaus, M., Sunderlin, W.D. and Verchot, L. (eds.) Analysing REDD+: Challenges and choices, 129-152. CIFOR, Bogor, Indonesia.
-
Peluso, N.L. and Lund, C. 2011
New frontiers of land control: introduction
. Journal of Peasant Studies 38: 667–681.