森を伐採しながら、森で食べてゆくことができるか?

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Peter Cronkleton
国際林業研究センター(CIFOR) 「森林とガバナンス」プログラム・上級研究員

非木材林産物(NTFPs)に依存している農村住民の食糧安全保障と収入に対して、木材伐採がもたらすネガティブなインパクトを制限することは可能だろうか?いくつかの難題があるものの、最近のForest Ecology and Management特別号 で発表されたLucy Ristらによる多地域対象研究(multi-region study)は、自分たちが利用している森林に影響を与える決定において、人びとに、より強い役割が与えられるなら、暮らしにとって重要な非木材林産物に対するネガティブな帰結を緩和できることを示している。

「生計上重要な非木材林産物に対する択伐施業のインパクト」と題したその論文は、木材伐採が森林での生活に与える影響に関する最近の理解に焦点を当てた現存する知見をまとめ、将来の研究と政策の道筋を明らかにしている。著者らによると、問題解決のためには、森林に依存して暮らす人びとが、木材伐採によって引き起こされる生活の変化にどのように適応しているかを特定することが必要である、という。

将来の木材伐採量や森林生態系に対する木材伐採のインパクトをいかに小さくするか。この点についてはこれまで多くの議論が行われてきた。しか し、伐採によっ て農村における暮らしがどのように変化したか、また、木材の管理と非木材林産物の管理は、両立が可能かといった点に焦点が当てられることは少 なかった。こ うしたなか、Ristた ちは、木材生産と非木材林産物生産の相互作用について検討した38の 論文を選び出し、レビューを行った。そして、圧倒的に多くの論文(31論 文、82%)が、 木材伐採のネガティブなインパクトを強調していることを明らかにした。そうしたインパクトのうち、森林の構造・構成・機能を伐採が変化させ非 木材林産物に 不慮の影響を与える「間接的インパクト」が最も広くみられるインパクト・メカニズムであり(ネ ガティブなインパクトを特定した22の論文、58%の論文で言及)、そして、ある種が木材としても、非木材林産物としても価 値が認められているときに生じる「利用のコンフリクト(衝 突・対立・不一致)に よるインパクト」がそれに続いていた(17の論文、40%の論文で言及)。

定量的な分析に基づいた論文が少ないことから、彼らは、森林に依存する人びとへの伐採のインパクトを明らかにするため、ブラジル、カメルーン、インドネシアの事例研究を検討し、少ないサンプルを補完している。木材伐採は、対象種を、その場所から除去したり、その利用可能性を減少させたりする。そのため「利用のコンフリクト」こそが、最も問題の多いインパクト・メカニズムであると彼らはみている。こうしたコンフリクトの解消は、詰まるところ、誰がコストを負い、誰が利益を得るかといった意思決定上の問題に帰着する、トレードオフを伴う。

著者らは、非木材林産物への伐採のインパクトに対して、学者や政策決定者たちがほとんど注意を払っていない、いくつかの理由を明らかにしている。木材は、しばしば、より価値のある森林産物であると考えられ、非木材林産物よりも多くの管理上の注意を集めてきた。また、周縁的なコミュニティによって、地域的に利用され、取引されている林産物より、国際的に取引されている商品に、研究も偏向している。さらに、農村及び都市世帯にとっての非木材林産物が有する社会経済的、文化的な重要性については、しばしば、ひどく過小評価されてきた。食糧安全保障がより人目を引く問題になるなか、非木材林産物を基盤とする栄養システムに、木材伐採がどのような影響を与えているかを理解する必要性が高まっている。

事例研究では、かなりのトレードオフが見られるが、それらの事例は、木材(の利用)と非木材林産物(の利用)の両立可能性を潜在的に高めることのできるいくつかの道筋も示している。例えば、伐採の回数や強度を制限することは、インパクトのタイプや強さを決定する決め手になりえる。いくつかの事例では、非木材林産物採取にとって重要な地域を分離し、伐採活動を排除することにより、重要な生活資源の効果的な保全を可能にしていた。このような事態が生じるのは、通常、社会組織が強い力を持ち、財産権が認知され、適切な政策が十分に実施される結果として、コミュニティが意思決定に対してより強いコントロールと影響力を持ったときであろう。しかし、残念なことに、熱帯の森林地域の多くでは、そのような状況は、存在しないか、いま生まれつつある、というのが現状である。

木材伐採をただ非難するだけなら、ことはおそらく簡単であろう。著者たちは、責任ある、そして、生態学的配慮を行う伐採は、人びとの暮らしに便益をもたらし得ると同時に、暮らしにとって重要な資源を劣化させる原因にもなりえる、ということを強調している。木材伐採がもたらす悪い影響が、森林に依存する人びとに、あまりにも重くのしかからないようにするためのいくつかの方策がある。しかし、森林に依存する人びとが、(資源)管理において、より先を見越した役割を担えるようにすること、そして、正しい情報を得た上での決定(informed decisions)をするのに十分な情報を得られるようにすること。これらを保障するため、よりシステマティックな研究と政策決定者の行動が求められる。

研究は、コミュニティから発せられた課題とニーズを組み込むべきである。また、開発アプローチは、より幅広い森林管理計画の出発点を提供する可能性のある、ローカルな土地利用・管理の実践に基づいて組み立てられるべきである。さらに、研究は、森林に依存するコミュニティの脆弱性が木材伐採の後にどのように変化したかを明らかにするとともに、それに関連する生計維持上の適応と対応戦略を明らかにする必要がある。リストらが結論で述べているように、コミュニティが変化に適応しつつあれば、心配する必要はないが、そうでなければ、我々は、失われた収入、低下した食糧安全保障、長期にわたる健康と福利に対するネガティブなインパクト、といった観点から、木材伐採の帰結を理解する必要がある。

[ 日本語訳 : 笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]

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リストらの論文、"The impacts of selective logging on non-timber forest products of livelihood importance" (Forest Ecology and Management誌掲載)が欲しい方はこちらをご覧ください:

//www.cifor.org/nc/es/online-library/browse/view-publication/publication/3520.html.