熱帯ラテンアメリカにおいて、REDDプラス・プロジェクトの効率性と公平性を同時に確保するためには、どのようにプロジェクトを組み立ててゆけばよいだろうか。地球の健康にとってきわめて重要な熱帯林を守りながら、1億900万人の人びと、そして、現在も増え続けている人びとに、食糧、衣料、住宅、そして収入をもたらすにはどのようにしたらよいのだろうか。
これらの問いに対して、CIFORの科学者Pablo Pachecoとその同僚は、Forests誌に最近掲載された論文のなかで、土地利用変化において、いかに異なった主要アクターが存在しているかを理解すること、適切なインセンティブの組み合わせを設計すること、そしていくつかの非常に難しい選択を行うこと無くそれらを達成することはできないと語っている。
熱帯アメリカの森林と景観を改変している人びとは、中央アメリカで大豆生産用の土地を切り開いている土地なし移民の家族から、アマゾンの硬材を中国の家具工場へと出荷する多国籍の企業家までさまざまである。
これらのアクター、彼らのモチベーション、そして彼らの行動が与える影響は、多様で動的であるために、そこで何が起きているかを理解することさえ不可能なほど複雑に思える。Pachecoらは、今起きていることの複雑性やダイナミズムを否定することなく、さまざまなアクターとそれらのトレンド、そして、それらのアクターが作り出す景観を明らかにして、私達、なかでもREDDプラスのプロジェクトを実施しようとしている人々を助けてくれる。彼らはこの論文で、主要なアクターを、しばしば競合しながら同時に、重なり合う、5つの異なるグループに分類している。すなわち、先住民、市場向けに限られた財を生産する伝統的農民、より市場に精通した小規模農民、大規模な商業的農家・牧場主、伐採・木材企業である。
それぞれのアクターの集団は、熱帯アメリカの景観を組み換えている次の5つの主要なトレンドと結びついている。すなわち、(1) アグリビジネスの急成長、(2) 伝統的な牛の牧畜業の拡大と近代化、(3) 小規模農業の 緩慢な成長、(4) 生産林のフロンティアにおける木材伐採、そして、(5)しばしば政府指定の保護区から非木材林産物を収穫する伝統的な農耕-採集経済の復活である。これらのトレンドは、世界市場や国の政策によっても促進され、それぞれがラテンアメリカの森林に重大なインパクトを持っている。
単に5つのトレンドを類型化したからといって、それらが単純になるわけではない。それぞれのトレンドは、さまざまなかたちで人びとの生計に影響を与え、開発と森林保全のトレードオフを要求する。Pachecoらの評価によれば、これらのトレンドのどれひとつとして、まったく否定的なものも、逆に完全に良いものもない。例えば、アグリビジネス開発は、高い森林消失率を導く一方で、中・大規模土地所有者に収入を集中させる傾向を持っているものの、大きな経済成長にも貢献する。一方、小農による農業は雇用を創出し地域の収入を引き上げる傾向があるが、人口が急速に増加したり、特定の商品作物の需要が急増したりすると、広範囲に及ぶ森林消失をもたらす。先住民の土地は地域の生活をまもるが、わずかな経済的便益しか生みださず、また、市場や社会的インフラから遠く離れた場所に位置している、などである。さらに複雑なことに、このようなトレンドは時とともに変化し、アクターも不変というわけではないのである。
これらすべての複雑性とダイナミズムを前に、Pachecoらは単純な回答を提供していないが、各主要アクターの集団に対する一連の提言を行っている。それは、土地利用の変容をより良く管理し、それによって、雇用を助長するとともに環境サービスを高めながら貧者の福利と森林の未来に対するリスクを最小限にするために、それらの複雑な性質の核心に迫るものである。彼らの提言は、土地投機と公有地の不法な占拠を減らすための「フロンティアの閉鎖(closing the frontier)」、というものから、すでに占有された土地の効果的な利用を高める方法として牧畜業の近代化を進めるというものまで、さまざまである。
とりわけREDDプラスの実施者がこの分析から学ぶ必要があるのはどのようなことだろうか。この論文では、REDDプラス・プロジェクトにとって、まずはトレンドの多様性を認め、適切な主要アクターと景観を特定することが肝要であると述べている。そのようにして初めて、彼らは人びとの行動を変え、温室効果ガス排出を減尐させるための、適切なインセンティブの組み合わせをデザインすることが可能になる。そうしたことが正しく実行されると、潜在的な社会的・環境的便益は気候変動緩和の領域をはるかに超えたものになるだろう。それは簡単なことではないが、無知・無関心でいることのコストは、(そうした取り組みをすることより)さらに高いものになるであろう。
[日本語訳:笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]
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Further reading
Pacheco et al の論文「熱帯ラテンアメリカにおける景観の変容:REDDプラスのためのトレンドの評価と政策への示唆(Landscape Transformation in Tropical Latin America: Assessing Trends and Policy Implications for REDD+)」はこちらを参照:http://www.mdpi.com/1999-4907/2/1/1/