昔から自然保護主義者は、陸上の野生動物(哺乳類、鳥 類、爬 虫類、両生類)を狩猟して食糧にすると、多くの熱帯林樹種や生態系の生存を脅かすことになると言ってきました。新たな研究によれば、いわゆる「野生肉の危 機」とは森林に依存する多くの人々にとっての食糧安全保障上の危機であるということも、同様に強く認識しなければなりません。
生物多様性 条約事務局とCIFORが出版した技術論文「野生生物資源の保護と利用:野生肉の危機」(Nasiら著)は、この意見の分かれる問題につ いて現在までの知見をまとめています。それによると、野生肉の売買は、ほとんど表には出てこないものの、熱帯林諸国の経済のかなり大きな部分を占めていま す。その取引額は西部および中部アフリカ諸国において年間42~205百万米ドルとも見積もられています。しかし、「膨大かつ多様な」経験的証拠からは、 現在の野生肉利用の速度は持続的ではなく、多くの地域で野生生物の減少につながっていると考えられます。特に、大型哺乳類は危機的で、地域的には既に絶滅 した種が多くあります。
「誰もいない森症候群 empty forest syndrome」は自然保護主義者の関心だけではありません。地方の食生活では、野生肉はたんぱく質と脂質の大切な供給源であり(中部アフリカでは 80%に達する)、しかも重要な季節的変動のセーフティネットなのです。多くの国では、たとえ肉となる野生動物を獲りつくしてしまわなくても、持続可能な レベルまで捕獲数を減らしてしまったら、もはや代わりとなる栄養源はありません。
地方の生活にとって、重要なのは野生肉を直接消費するこ とばかりではありません。研究によれば、最貧の人々は豊かな人々よりもずっと、地方や都会の 市場での野生肉の販売に生計を頼っています。なので、野生肉の売買を貧困層の生計を損なわずに禁止できるという、世間でよく言われている話は見当違いで す。
レポートによれば、野生肉資源の持続的管理には、種や状況によって異なる方法が必要です。例えばゴリラのように、個体数の内的増加率 が低く、未撹乱 の生息環境に強く依存する種は、過剰な狩猟に対し特に脆弱です。対照的に、ダイカー duiker やげっ歯類などのように、繁殖が早く農業モザイク景観にも生息できるジェネラリストの種なら、狩猟圧力に対しても強い回復力を持つでしょう。このような違 いを考慮しない狩猟と売買の全面禁止は失敗に終わるでしょう。
野生肉の危機を解決するためには、権利の体系をもっと確実なものにするべき だと、レポートの著者は主張しています。もし、持続可能な土地利用や狩猟 を行うことで地域住民に収益が保証されるなら、住民はまともな土地管理を行い、選択的な狩猟のルールに合意することを選ぶでしょう。野生肉資源の持続的管 理のためには、この問題を公けの場に引き出し、すべては違法だという考えは捨て、国の統計と計画の中に野生動物の肉の消費を位置づけることが必要です。
野生肉の問題を、国際動物福祉の問題としてではなく、持続可能な生活の問題、そして世界食糧危機の一端として捉えなおすことから始めるべきではないでしょうか。
(日本語訳 鷹尾 元(CIFOR) g.takao@cgiar.org)
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Further reading
今回御紹介した文献は:
Nasi, R.; Brown, D.; Wilkie, D.; Bennett, E.; Tutin, C.; van Tol, G.; Christophersen, T. 2007. Conservation and Use of Wildlife-Based Resources: The Bushmeat Crisis. Secretariat of the Convention on Biological Diversity, Montreal, and Center for International Forestry Research (CIFOR), Bogor. Technical Series no. 33, 50 pages. http://www.cbd.int/doc/publications/cbd-ts-33-en.pdf