森林政策科学におけるコミュニケーションの挑戦

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Peter Holmgren CIFOR所長

科学・研究で得られた新たな知見、そして、それらのインプリケーション(含意)を伝えることは、伝え手にとっても、また、受け手にとっても、ひとつの挑戦である。私たちは、綿密で適切な証拠を得る一方、民主的な意思決定のプロセスを持つためにも奮闘している。しかし、両者のコミュニケーションが機能不全に陥ったり、科学に基づかない情報で満たされていたりすると、私たちはそれに失敗するだろう。私たちが目指すのは、(ある)行動の(あるいは、何もしないことの)帰結が理解され、整理され、あっさりと無視されることがないよう、適切な成果をまとめることである。

この小稿は、良い情報が悪く用いられるとき、また(より危険なことだが)、悪い情報が説得力を持って用いられるときに起こりうる帰結に関する、個人的な省察である。上の図は、考え得るシナリオを概略的に描くために、オックスフォード大学生物多様性研究所のGill Petrokofskyから借りたものである。

学者、政策決定者、報道を主要な任務とする「第四階級(fourth estate)」の人びとを含む多くの人たちが、気候変動科学をめぐるコミュニケーションについての詳細な分析を行っている(例えば、 Roger PielkeStephen Schneider)。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価プロセスや報告、そして、多方面にわたる科学は、気候変動に関する科学的合意に達するための基礎を敷くものである。したがって、いくつかの非常に影響力のあるメディア(フォックス・ニュースとウォール・ストリート・ジャーナル)が扱った気候変動関連の論文や対策の80-90パーセントで、こうした合意について誤った説明をしていたことを示した近年の論文は私たちを当惑させる。私が考えるのに、これは貧弱な情報がよく用いられていること、そして、非常に影響力のある情報伝達者が、誤解を招く情報をまとめ上げ、多くが非科学者からなる聴衆に向けて放ったことを示す強力な事例である。

まったく別の分野で、良質な情報がうまく用いられなかった事例をみることができる。多くの人が覚えているように、1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ直後に崩壊した。Edward Tufteの優れた著書で述べられ、またそこで首尾よく言及されているように、科学者やエンジニアたちは、過去のミッションの経験やデータに基づき、打ち上げを行うには寒すぎるとの結論を事前に出していた。しかし、打ち上げの予想される結果は、意思決定者が明確に理解できる形で伝えられていなかった。(事故発生の可能性を示す)根拠がありながら、惨事は起きてしまったのである。これは、(研究などの)成果がどのように伝達されるかが決定的に重要な意味を持ち得ることを、私たちに思い起こさせるひとつの劇的な例である。

話をフォレストリー(森林管理・林学)に移そう。私たちは、ステークホルダー(利害関係者)に森林の状態やフォレストリーについてわかってもらうことに、どれだけ成功しているだろうか?森林科学と森林政策の接点について多くの読み物がある。例えば、2005年のIUFRO(国際森林研究機関連合)の論文である。

森林やフォレストリーに対する一般的な認識は、森林政策の専門家集団のそれを超えて、おそらく大きく異なるだろう。例えば、森林地域の変化のように立証済みの事実についてでさえ、一般の認識と科学的知識のあいだにはかなりのギャップがあることを報告したこの報告書のように、この点については、ヨーロッパではよく研究がなされてきた。ネパールパプアニューギニアにおける、最近のCIFORの二つの研究も、こうした状況を確認している。それらの研究は、ジャーナリストがバランスの取れた検証済みの情報にアクセスできないこともあって、これら二つの国の報道機関がREDD+に関して適切な報道を行っていないと結論づけている。

私たちは、私たちの研究成果をうまく理解してもらえると想定することはできない。私たちは、しばしば、科学的根拠を提示することの必要性にそれ自体に主眼を置く。私は、今後のブログのなかで、証拠と森林研究の体系的なレビューというテーマに戻るつもりである。ここでのメッセージは、そうした適切な研究成果の明確で体系的なコミュニケーションもまたきわめて重要である、ということである。

このPOLEXは、最初、CIFOR所長、Peter HolmgrenのDG’s Blog(所長ブログ)に掲 載されたものです。その他のブログをお読みになりたい方は、こちらをご覧くだ さ い:www.forestsnews.cifor.org/pholmgren

[日本語訳 : 笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]

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Further reading

  • Huertas, A., D. Adler. 2010. Is News Corp. failing science? Representations of climate science on Fox News Channel and in the Wall Street Journal opinion pages. Cambridge, MA, USA: Union of Concerned Scientists
  • Guldin, R.W., J.A. Parrotta, E. Hellström. 2005. Working effectively at the interface of forest science and forest policy – guidance for scientists and research organizations. IUFRO Occasional Paper No. 17
  • Rametsteiner, E., L. Eichler, J. Berg. 2009. Shaping forest communication in the European Union: public perceptions of forests and forestry. Rotterdam: ECORYS Nederland BV
  • Tufte, E.R. 1997. Visual Explanations. Graphics Press. ISBN 0-9613921-2-6
  • Khatri, D.H., R.P. Bhushal, N.S. Paudel, N. Gurung. 2012. REDD+ politics in the media: A case study from Nepal. Center for International Forestry Research, Bogor, Working Paper 96.
  • Babon, A., D. McIntyre, R. Sofe. 2012. REDD+ Politics in the Media: A case study from Papua New Guinea. Center for International Forestry Research, Bogor, Working Paper 97.