ジャズと科学と持続的開発

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今回のPOLEXは、天然資源管理を通じた持続的開発のための研究書の紹介です。

乾 燥地、山地、森林地域において天然資源を劣化させないこと、しかも人々の生活 を改善することは簡単なことではありません。魔法もありませんし、単純な技術もな いのです。天然資源の保全と生計の向上のため、膨大な資金が投入されてきました。 しかしその割には、ささやかな成果しかあがっていないのが現状です。道路建設、公 衆衛生や教育の改善により、僻地の貧困は改善されてはきました。しかし、社会問 題、環境問題はいまだ大きいままです。

天然資源の保全、 生計の向上を達成するためには、過去の努力が失敗に終わった理 由を見極め、未来の可能性を探る必要があるでしょう。つまり、研究が必要なので す。しかし、多くの政府、援助機関は、研究を現実的な解決策を提示しない学問にす ぎないととらえているためか、研究への予算配分に乗り気ではありません。

政府や援助機関はいいところをついているのです。ほとんどの研究 は、政策立案者 や資源管理の実務者が問題を考えるための材料を提供するというより、学問的な研究 成果を公表することを目的にしているのですから。おまけに研究者は、自分たちが助 けようとしているはずの人々の意向に関わりなく、自分たちの研究テーマを決めると いう傾向をもっています。一つにはこれは、研究費を出す側の問題でもあります。と いうのは、研究費の申請を受ける際には予算を含むとても詳しい研究計画書を提出す ることを要求し、研究費を交付する際には、申請時よりよい手法が見つかったとして も研究の前提条件が変わったとしても、計画書どおりに研究を実施するよう求めるの ですから。

WWFのJeff SayerとCIFORのBruce Campbellによる「持続的開発のための科学」は、 現場対応型の研究手法を提案しています。同書は研究者に対して、何を研究するか決 めるよりも前に、本当の問題がどこにあるのかを理解すること、そして関係者との間 に長い信頼関係を築くことを求めています。もちろん研究には明瞭な目的が必要で す。ただし個別の研究課題や手法は、時とともに進化していくべきなのです。さまざ まな観点とスケールの研究が求められている訳ですが、考えつくすべてのことを調べ なければいけないということではありません。持続的開発のためには、技術開発やそ の普及だけではなく、政策決定者が選択肢を検討したり、機会を見つけたり、過去の 経験から学ぶのを補助するような研究が求められているのです。

良い研究は、ジャズに例えることができるでしょう。研究者は、ジャズ奏者のよう に、自分たちが何を奏でるのか、どう奏でれば、聴衆の心に響くのかを理解する必要 があるのです。そして、楽譜に縛られることなく、流れにあわせ柔軟なアレンジをす ることが大切です。

上 のようなやりかたで、本当にうまくいくのでしょうか?それは、わかりません。 同書はいろいろな国の事例を提示していますが、まだまだ演奏料に見合う音色を奏で てはいないのです。同書で提案されているようなやり方をする研究者は殆どいません し、そのような研究にお金を出す機関はもっと少ないのですから。しかし、現状が変 わらないことを前提にした研究では、極限の土地における貧困と天然資源の問題を解 決することは出来ないことがわかってきました。聴衆の反応に応じて演奏を変化させ るジャズのように、自分たちの活動が与えた影響を検討しながら、状況の変化に応じ ていく研究を試してみる時が来たのです。

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Further reading

今回、紹介した書籍は、Sayer, J. & Campbell, B. 2004. The science of sutainable development: Local livelihoods and the grobal environment. Cambridge University Press, Cambridge です。 同書の一部、「序章」の無料コピー (PDFファイル) を希望する方は、 Ms. Feby Litamahuputty宛に御連絡下さい。 からダウンロードすることもできます。

同書の購入を希望される方は、 にて注文することができます。

質問・コメントがある方は、Jeff Sayer、もしくはBruce Campbell宛にお願いします。英語での質問・コメントの送付に不安がある方は、CIFORの倉光宏明に、ご連絡頂ければお手伝いさせて頂きます。なお、質問およびコメントについては、今回紹介した書籍をご一読の上でお願いします。